R E P O R T レポート
女流棋士×競技かるた日本一が語る100%のパフォーマンスを発揮するために大事なこと 後編
-脳に汗をかきながら、AIを使いこなすということ-
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前編では、優勢な局面での心の持ちようや、運動やサプリメントとの向き合い方について話を伺いました。後編では、趣味との関わり方やますます存在感が増しているAIソフトとの向き合い方などについて伺います。
(インタビュー日:2023年7月13日、取材・文 ユニテックフーズ株式会社 志村広樹)
前編 -技術・メンタル・勇気・運・食事・運動- 総合力が勝負を制す-
-勝負の世界で生きていますと様々プレッシャーが多いと思いますが、趣味はどんなことをしているのでしょうか?趣味も勝負事だったりするのでしょうか?
-中倉
勝負事ではないほうがリラックスできるタイプで、爽快感が得られるものが好きです。バイクや車の運転は昔からの趣味で、免許が取れる年齢になったらすぐに取って、バイクは原付から始まり、中型免許、大型免許を取ってハーレーにも乗っていました。
-粂原
格好良いですね。
-中倉
ハーレーはあまりにも乗る機会が減ってしまって手放してしまいましたが、車は今も運転します。将棋と真逆な感じで、リフレッシュになります。
-粂原
自分は麻雀やダーツなどが趣味ですが、同じ勝負事ですが特には気になりません。
-中倉
麻雀は島井さん (島井咲緒里女流二段) や香川さん (香川愛生女流四段) が得意としていますね。周囲でやっている人が多かったので、用語がわかるぐらいにはなりたいと思って一時期打っていました。でも私はあまり向いていないようです(笑)。ハマりすぎるのも良くないと思い、最近はあんまり遊んでいません。羽生先生 (羽生善治九段) や森内先生 (森内俊之九段) はチェスだったりバックギャモンだったりで海外にも遠征されていましたが、オフの時も将棋に近いボードゲームをされていることにとても驚きました。
-粂原
他の趣味としては料理もしています。最初は体つくりの一環でしたが、やってみると調理の過程が楽しくはまりました。
-中倉
自炊はいいですね。私も普通の家庭料理ですけど作ります。自分好みにできるところが良いです。お酒も好きなので、自分好みのおつまみとお酒で一杯やるのは至福です。
-趣味の内容が、勝負事との距離感も反映されて興味深いです。趣味でリラックスできる面もあるかと思いますが、厳しい世界であることは変わりありません。過去に辞めてしまいたいと思ったことはあるのでしょうか?
-中倉
将棋を始めたころはそんなに夢中になって指していたわけではありませんでした。自分が子供の頃は周囲で将棋を指している女子は多くなく、将棋道場に行ってもおじさんばかりでした。将棋を始めたきっかけは、2歳上の姉 (中倉彰子女流二段) とともに4歳の時に父から教わったことです。姉妹で指せたというのは大きかったですが、父の影響でやらされたという側面も否定はできません。ただ指し続けていくと大人の人に勝ったりもして、小学生の時には女性のアマチュアの全国大会で優勝し、将棋を続けていくならプロを目指そうと決心しました。高校2年生の時に、プロになることができました。負けたりすると、親から厳しいことを言われたりすることもあって、当時は「なんでこの道に私が」と親に反発することもありましたが、今となっては感謝しています。女流棋士という選択は、ちょっと面白い人生を歩めているという感覚があります。
-粂原
自分は小学校の5年生の時に競技かるたを始めましたが、すぐにのめり込みました。当時、軟式テニスや野球も習い事でやっていましたが、野球はかるたを優先するために辞めました。中学生の時は、家族に車で送ってもらいながら全国各地の大会に参加したりしていましたが、トーナメントの初戦で負けてしまうことがあり、家族に対しての申し訳なさや自分に対する不甲斐なさもあって、もう2度とかるたをやらないと言ったことは何度もありました。また社会人になって、会社経営のほうが上手くいかなくて、体調とメンタルを崩し、もうかるたを辞めようという時期がありました。その時にたまたま後輩にかるたの大会に誘われて参加したことをきっかけに、メンタルと体調の不調から脱し、名人位獲得への足掛かりとなりました。自分も今となってはかるたには感謝しかありませんし、今後もライフワークとして続けていこうと思ってます。
-現代ではAIの活用があらゆる分野で叫ばれていて、ChatGPTの話題も新しいです。勝負の世界でも様々入り込んでいて、特に将棋では「dlshogi」や「水匠」など非常に強い将棋ソフトが話題になっています。目の前の勝負には生身で挑まなければなりませんが、AIとはどのようにつきあっていますでしょうか?
-中倉
昔は人間が1番強くて、AI を使うということはプライドが許さないというか、拒否反応が強かったです。AIに頼るという概念が存在していなかったですから。けれども今は、柔軟に取り入れて、勉強方法も常に変えていって、良いと思ったことは素直にやるような方が伸びていくと思います。こだわり強い職人みたいな人は、厳しい時代だと思います。けれども話はそんなに単純ではなくて、AIを使用したからといって簡単に強くなるわけではありません。結局、自分でその盤面の最善を考えなければなりません。AIに聞けばすぐ教えてくれますが、 想定した局面からは必ず変化するので、全てのパターンを覚えるのは不可能です。なので楽して勉強してしまうことで、取り入れ方次第では弱くなる可能性もあります。
-粂原
なるほど。そこは頭をひねって、自分で試行錯誤を繰り返した知識の方が、実戦で生きるということですね。
-中倉
脳に汗をかくような勉強もする必要はありますし、最新の技術を使用して序中盤乗り切らなければなりませんし、バランスよくやっていかないと勝っていくことはできないです。AIを使用しない昔ながらの人もまだ一定数いますが、そうした方々は自分の頭で汗をかいて考えることに重きを置いています。それも極めると、すごい力にはなると思います。将棋のコンピューター選手権では非常にハイレベルなことをやっていますが、人間はそこまでの次元にいくのは難しいので、脳に汗をかく努力でも戦える範囲だと思ってます。
-粂原
自分の頭で考えることをやめて思考停止になった瞬間に、かるたが弱くなるような感覚は強くあります。かるたの指導や仕事での受験生への勉強指導でもそうですが、教わったことを素直に実践することはよいことです。その上で、自分の中で解釈して自分に落とし込まないと、一見上達しても後々の上達の障壁になることも多いなと思っています。本当に強くなる人は、自分の頭で考える力があります。
-中倉
AIで検討すると、自分では思いつかないような最善手が出てきますが、なんでその手が良いかを自分なりに考えて、それを理解できると身になったと感じます。単に良い手を覚える暗記になってしまうと、全然役に立ちません。AIは、何十手先を踏まえて良し悪しを判断するので、単に指し手を見ただけでは、その狙いがわかりません。AIが指し続けるからこそうまくいくのであって、人間が指すと失敗する手もたくさんあります。真似するだけでは頭でっかちになってしまいます。
-粂原
かるたでは、まだAIが入っていません。将棋のようにAIが勝率80%といった風に形成評価するようなことは全く想像がつきませんが、各選手に応じたデータ分析の面で採用されることはあるかもしれません。例えば、粂原圭太郎という人間が、「あきのたの」の札をどこに配置するか、どの局面で相手に送るかなどを勝率と踏まえて統計解析することが考えられます。そして、自分に最適な戦略をAIから教わることが出来るかもしれません。
-中倉
そういう話を聞くと、逆にもう人間しかできない技術という感じがします。毎試合、毎試合異なる環境で試合をするわけですし。
-粂原
そうですね。音が重要なのでですが、札が読まれる1秒前から無音の時間がありますが、その時に自分にだけしか聞こえない雑音がしたりすると、その瞬間に集中がマイナスになります。そうした些細なことも試合に影響を与えるので、繊細かつ複雑な競技です。だからこそ、AIの視点が入れば、より分かってくることも増えるのではないかと思います。
-AIの取り入れ方一つとっても、色々な考え方や工夫の必要性が出てきますね。ただいくら強いAIが出てきても、最後は生身の人間の実力ということを、聞いてて痛感しました。藤井聡太七冠が世の中の人々を魅了しているのも、自分の頭で考え抜く姿勢にあるのでしょう。ぜひお二方にも、「クレアゾーン」とともに藤井さんに負けないように頑張ってほしいです。
-中倉・粂原
(笑)
-中倉
女流棋界は、近年レベルが上がるとともに若い女流棋士も増えています。自分はベテランと呼ばれる領域に入ってきましたが、サプリメントを含めて様々取り入れながら、対局と代表理事の活動を頑張っていきたいと思います。
-粂原
今年の名人戦ではあと一枚が及ばず、敗れてしまいました。来年こそは名人位を奪取したいと思っているので、まずは10月の西日本予選に向けて「クレアゾーン」を取り入れながら、調整を行っていきます。それだけではなく、かるたの普及活動や受験指導においても様々動いていきたいと思います。
-本日はありがとうございました。