日本女子プロ将棋協会

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REPORT 2008.07.21

第14回1DAYトーナメント・Mondayカップ観戦記

マンデーカップ決勝戦
「ゴキゲン中飛車超急戦の乱闘を船戸陽子女流二段が辛くも打っちゃりに石橋玉を降す」
平成20年7月21日、ここLPSA駒込サロンにてマンデーカップの戦いの幕が切っておとされた。
私達マンデーレッスンの教室に通う生徒達で初めて企画したLPSA所属の女流棋士による大会である。
ここ、その会場となる駒込サロンは直ぐ脇に西中里公園という周囲を木々に囲まれこじんまりとした
閑静な憩いの場をかかえている。
そういう緑多き場所に涼を求めて心静かに時を過ごそうとしている人々とは対照的に、この対局場で
は真っ赤な炎が天をも貫こうという勢いで熱い戦いが繰り広げられようとしている。
閑話休題
朝10時に1回戦が始まり、午後4時には決勝戦を迎えることとなった。
この決勝戦は石橋幸緒女流王位と船戸陽子女流二段とで争われることとなった。
両名、席について振り駒が行われ、石橋の先手となった。対局開始まで10分ほど残している。
同じ部屋で同時に大盤解説も行われるので、急遽衝立で仕切ることになった。また窓も逆光になるとことでカーテンが閉められてしまった。
こうなると、冷房の風も届かず少々暑さを感じるとともに小部屋に閉じ込められ異空間にいる思いである。
隣からは大盤解説者の阿久津主税六段の元気な声が聞こえて来る。またその聞き手を務めるのは
女流棋士かと思いきや何とマンデーレッスンの生徒数人である。
当の対局者は静かに対局が開始されるのを待っている、いや解説場の声に反応して時折満面に笑み
を浮かべている。特に石橋は今にも椅子から転げ落ちそうなぐらいに大笑いしていた。
しかし、対局開始5分前の声がかかると、流石にプロ、厳しい顔に戻っていた。
さて、盤上に目を移すことにしよう。
先手番石橋は気息を整えるかのようにやや少考あって、初手7六歩を指した。
一方後手番の船戸はと見れば、4手目5四歩を指す前にペットボトルの水を口にした。
盤側で見ていると、両対局者の気迫が肌にびんびん感じとれる。が、ここでちょっとした事故が起きた。船戸が5四歩と指してここで本来なら手合時計を押すべきなのだが、あまりの緊張の所為か押し忘れたのである。
少ししてそれに気付いた石橋が手合時計を押すよう船戸に促した。
社団戦では押し忘れを教えてくれる人も中にはいるが、そのようなことは滅多にない。
手は進んで、12手目5六歩に船戸は相当時間を使った。小刻みにからだを揺らしたり扇子で扇いだり
して懸命に考えていた。多分3二金と穏やかな順を選択すべきか比較検討していたのだろう。
局面はこれで激しい流れになった。20手目6二玉までは一つの路線であろう。
さて、次の手が分岐点であるが、本譜の▲7五角は最近では影を潜めており、代わって▲1一竜が主
流となっているようだ。
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24手目、船戸は盤上を睨むような姿勢で長考に沈んだ。ここでは△5一金右が常識となっている。
しかし、△2一歩が指された。この手は▲1三竜と代わっていくらか損ではなかっただろうか。
27手目石橋の2四歩は急所で、この手が間に合うかどうかが勝負所となろう。
30手目5五同飛に石橋はじっと▲5七歩。局後石橋は▲5六歩と先手を取って受けることも考えたよう
で、次の船戸の△5六歩には「びっくりしました」と語っていた。
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41手目2三歩成が漸く実現し、石橋はこのあと勢いよく▲3二とと銀を掌中にいれた。
44手目船戸の△5七桂不成に石橋は身を乗り出して熟考、一方船戸は落ち着いた様相で水を口に
運んだ。
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「ここは勝負どころである」との阿久津六段の声が聞こえて来た。
46手目5二金左はどうだったか。「ここは△5一香の方がよかった」と阿久津六段の評があった。
51手目石橋の1二竜は厳しい手で、船戸はこの手に対し△2四角という受けを編み出した。
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阿久津六段によると、これは攻防を兼ねた好手ということであった。船戸はこの手を指してほっとしたのか椅子の背もたれに身をまかせた。
一方石橋は険しい目つきで盤上を凝視して、ときに首に手をあてては何かを捻り出そうとしていた。観戦子はここで▲6一銀の筋を追いかけていたが、石橋の着手は▲5三金であった。船戸は△2二香と怪しげな手で応える。これは次に△5七角成と△5三金の金取りを見せて石橋の焦りを誘っているのか。
石橋は▲2一竜と過激な手を選んだ。船戸も今更後に引けず△5七角成と飛び込む。
石橋は勝ち筋を見切ったのか▲6二銀と一気呵成の寄せに出た。
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しかし、これが敗着になろうとは。
局後の感想戦で、観戦子は単に▲6一銀と王手して△8二玉の逃げに▲2二竜で石橋の勝ちを両対局者に示した。
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63手目8五桂となって、船戸は自玉に受けがないことを悟った。そうなれば王手の連続で攻めて、8五の桂を△5五飛から△8五飛として飛で素抜こうと試みた。で、船戸は△5八歩の王手を敢行した。
この時、石橋は自玉が即詰みになったことに気が付いた。実は、怪しげな△2二香が玉の逃げ道を消していたのだ。石橋はこの香の存在をすっかり忘却していたのだった。
まさか詰んでしまうなんて、船戸自身即詰みを読んでいたわけではないので唖然とした表情であった。
石橋は△4四金を見て、20秒ほど考えて投了した。▲5三金となんか打たず、▲5八歩と受けておけ
ばよかったと反省していた20秒だったようだ。
(記:大森常一)