日本女子プロ将棋協会

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REPORT 2008.09.15

第16回GSPカップ決勝

【決勝】16時対局開始
笠井友貴さん-相馬美咲さん
動画ライブ中継・対局者(別ウィンドウ)
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(先手は笠井さん)
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(後手の相馬さんは横歩取りに誘導)
 第16回1dayトーナメント「GSPカップ」の決勝戦は笠井友貴さんと相馬美咲さんの対戦になりました。ふたりは今までにも学生女流名人戦決勝など、何度も対戦している間柄です。本局も熱戦が期待されるでしょう。
 笠井さんは昨日行われた第40期女流アマ名人戦で優勝し、見事2連覇を飾りました。今日は3局連続の先手です。準決勝の中七海さんとの対局は本当に大熱戦で、感想戦では「強い」を連発していました。
 相馬さんは昨年の学生女流名人。高専の全国大会では女流戦で無敵を誇っており、東日本学生女流名人戦でも2年連続優勝しています。笠井さんも相馬さんも、今日の優勝候補の本命だったと思います。
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(ネット上に公開されている棋譜をチェック)
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 今日の出場者はみんなで準決勝の棋譜をネット中継画面でチェックしていましたが、16時直前になって「あれ? もう4時だよ」と笠井さんが言ってあわてて対局準備。あらかじめ振り駒をしており、笠井さんの先手と決まっています。
 駒箱を開けたのは笠井さんでしたが、さっきは相馬さんの振り歩先だったし…という成り行きで王将を相馬さんに譲っていました。決勝戦も個人協賛の前野さんの挨拶で対局開始です。
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 ふたりとも居飛車党なので相矢倉かと思われましたが、横歩取り8五飛になりました。序盤から大駒が派手にぶつかりあう将棋なので私にはとてもとても指しこなせません。
 関係者控え室では中井女流六段と石橋女流王位による「無言の解説会」が始まりました。ホワイトボードで仕切られているだけなので、声が聞こえてしまうからですね。パントマイムのようです。
 32手目の△8八角成では△8六歩と合わせていく手を石橋女流王位が示していました。本譜の△8八角成は珍しいそうです。
 37手目の▲2九飛では▲1六飛も考えられましたが、△1四歩で忙しいでしょうか。すでに敗退した選手もネット中継と大盤解説を熱心に見つめています。
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 ところでこの観戦記は対局とほぼ同時進行で書いています。先ほど準決勝のネット中継も担当させていただきましたが、本当に忙しい。30秒将棋となるとなおさらです。対局しているときも「30秒って短い!!」と思うのですが、キーボードから文字を打たなければならないのは本当にプレッシャーです。誤植も心配ですし。
 と先に終盤戦への言い訳を書いておきまして(笑)本局に視線を戻します。大盤では今日出場した小野さんが呼ばれ、聞き手をしています。といっても無言の解説会です。いつしか大盤近くに何人も集まった小声の検討になっています。
 37手目▲2九飛の局面で相馬さんが長考。大盤では△7五歩を中心に検討されていました。ふと小野さんが「7四歩って取られたらまずいんですか?」と質問。中井さんは笑顔で「ううん、まずくない」。▲7四角と出られても△8四飛と引けるので、すぐにどうということはなさそうです。観戦している今日の出場者の皆さんは実力者ばかりですが、横歩取りを指さないそうなので少し勝手が違うようです。
 相馬さんが選んだのは△5四角。3六と7六をにらむいい場所です。対して笠井さんは▲2四歩と垂らしました。こういうじっくりした手を指されると焦ります。
 今日は個人協賛の前野春樹さんも観戦に訪れています。前野さんは棋力こそ10級に満たないとおっしゃっていますが、情熱は将棋ファン一??です。将棋ファンになるきっかけは佐藤康光竜王-羽生善治挑戦者の竜王戦決着局のBS中継を偶然見たこと。その後、毎週NHK杯トーナメントの放送をチェックするようになったそうです。
 前野さんは横歩取りや角換わりといった激しい将棋を見るのが好きということで、本局も大好きな展開になったようです。
 それにしても個人協賛ってできるんですね。今日のネット中継をごらんのあなたもいかがですか? 私はかなり厳しいです。
 先手は▲2五飛の形になれば▲2三歩成が実現しますが、相馬さんは△7五歩。飛車の横利きを止めるので勇気のある一手です。大盤で検討していたGSP勢(?)は▲7五同歩を中心に検討していました。後手からの早い手がないということでしょうか。▲2五桂は、桂馬を渡すと△6四桂があるから指しづらいと見ています。大盤に戻ってきた石橋女流王位は局面を見ると、じーっと黙っていました。まだまだ難しいのでしょうか。その表情は厳しいものでした。
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 ここで残念なお知らせがあります。せっかく私がリアルタイムで書いているのに、サーバーが重くなってしまって掲載できないそうです…。寂しいですね。1dayトーナメントでこんなにサーバーが重くなってしまったのは初めてだそうで、アマチュア女流選手がこれだけ注目されているのは大変うれしいことです。
 アップはできなくても書くだけ書いていきます。よろしくお願いします。
 普段は笑顔いっぱいの笠井さんですが、対局中はきりっとした表情を見せます。口が真一文字で、まっすぐに盤面を見つめています。
 相馬さんは対局中とは思えないほんわかした雰囲気を持った方です。準決勝ではゆったりと椅子に座る姿が印象的でした。
 40手目△7五歩に対して笠井さんは10分以上長考しました。全持ち時間の3分の1.単純計算では持ち時間6時間の順位戦なら2時間以上考えていることになります。笠井さんは1回戦でも準決勝でも、勝負所と思ったところで惜しみなく時間を注いでいました。そして45手目に▲2五桂を決行。秒読みの大熱戦です。
 秒読みの音が鳴る中、なんと誰かの携帯が鳴りました。一瞬凍りつく面々。でも誰かが「…ゆきちゃん??」 控え室に置いてあった笠井さんの携帯が鳴ってしまったようです。思わずみんな微笑みました。
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44手目の△7六歩は緩手だったようです。▲2五桂から攻めが切れない形になりました。時間にしてわずか10分ほど。笠井さんの攻めは確実で厳しく、サーバーが落ちている間に終局してしました。終盤にサーバーが重くなることはインターネット中継では大問題ですが、終盤が二転三転で面白い将棋の特徴から仕方のないことといえます。今回のGSPカップ、過去最高のアクセス数だったそうです。
 終局後の感想戦は、優勝した笠井さんが石橋女流王位や中井女流六段とやり取りするような形で行われました。32手目の△8八角成では△5五飛▲4五歩△5四飛▲3三角成△同桂▲6六歩△8四飛が定跡とのこと。本譜はその定跡に比べて少し先手が得している形なので「こっちがよくなるかなと思った」と笠井さんの感想がありました。
 38手目に相馬さんは長考の末△5四角と打ちましたが、結果としてこの角が最後まで働かずに終わってしまいました。ここでは△5四歩として先手の角をいじめにいくのが有力だったそうです。(1)▲4八金と中央を厚くしたいですが、それは△5五歩で角がせまくなり、後手が指しやすいようです。(2)▲2四歩は△5五歩▲3四角△7五歩▲2五桂△5六歩▲同歩△2五桂▲同飛△3三金で後手が指せそう。(3)▲6六歩△5五歩▲6七角△7五歩でいい勝負ということでした。
 また44手目△7六歩では△8六歩のほうがまだ難しかったようですが、▲同歩△同飛▲8七歩△6六飛▲6七歩でやはり先手が勝っているそうです。
 61手目の▲7三銀が明快な決め手。笠井さんは2度目の1dayトーナメント出場で見事優勝を飾りました。昨日の女流アマ名人戦に続いて2日連続の栄冠になります。
 短手数で濃密な将棋でした。観戦記は駆け足になってしまい、対局の魅力を十分に伝えられたのかわかりません。でも1日中観戦してくださった方が多く、ネット中継でスピーディーな1dayトーナメントを楽しんでいただけたと思います。
 来月からもあんな企画やこんな企画が待ち受けているそうです。これからもますます楽しみですね。私も大阪から1dayトーナメントの発展を期待しています。
(リアルタイム観戦記・諏訪景子)