中学生・小学生女子ナンバー1を決める「中学生女子将棋名人戦」「小学生女子将棋名人戦」の全国大会がいよいよ8月22日(日)におこなわれます。各ブロック大会を勝ち抜いた以下の選手が下記要項によって優勝が争われます。
◆日時 2010年8月22日(日) 10:30~16:00
◆会場 共同通信社研修・交流センター(東京都中央区2-1-3)
〔注〕会場の都合により一般の方の観戦・見学は出来ませんのでご了承ください
◆主催 日本女子プロ将棋協会(LPSA)
◆協賛 株式会社毎日コミュニケーションズ 厳選食品・安心堂 チュッパチャプス
◆協力 共同通信社 東京おもちゃ美術館
【スケジュール】
10:15 組み合わせ抽選
10:20 対局規定説明
10:30 小学生:1回戦/中学生:準決勝 対局開始
-対局は小学生が持時間各20分・秒読み30秒、中学生は持時間30分
11:40 小学生:準決勝開始
12:00 中学生:昼食休憩
12:50 小学生:昼食休憩
-敗退選手に中井六段、石橋四段の指導対局を予定(控室にて)
13:00 中学生:決勝戦・3位決定戦開始
13:45 小学生:決勝戦・3位決定戦開始
15:00 中学生:表彰式
15:30 小学生:表彰式 (小学生の進行が早ければ、同時に表彰式を行う場合あり)
【対局規定】
・先後の決定は振り駒
・持ち時間は小学生が各20分、中学生が各30分。使い切ったら秒読みはともに30秒
・千日手は成立時のままで先後を入れ替えて指し直し
・持将棋は27点方法。同点となった場合は後手の勝ちとする
【トーナメント表】
投稿者: lpsa
8/22(日) 第4回小学生・第2回中学生女子名人戦 全国大会
中学生・小学生女子ナンバー1を決める「中学生女子将棋名人戦」「小学生女子将棋名人戦」の全国大会がいよいよ8月22日(日)に迫りました。各ブロック大会を勝ち抜いた以下の選手が下記要項によって優勝が争われます。
当日は「GSPブログ」にて対局の中継・速報など行います。
★大会結果
〔小学生の部〕
優勝 今井 絢(愛知・豊が丘小3年)
準優勝 石本さくら(大阪・山手小6年)
第3位 永井さくら(埼玉・戸田第二小6年)
第4位 郁 桂花(上海・上宝学校6年)
第5位 牟田口環美(愛媛・白浜小6年)
〔中学生の部〕
優勝 長谷川優貴(兵庫・江井島中3年)
準優勝 中澤沙耶(愛知・宮田中2年)
第3位 小澤あざ美(神奈川・洋光台第二中2年)
第4位 孫露ジエさん(上海・向東中学3年)
【トーナメント表】
◆日時 2010年8月22日(日) 10:30~16:00
◆会場 共同通信社研修・交流センター(東京都中央区2-1-3)
〔注〕会場の都合により一般の方の観戦・見学は出来ませんのでご了承ください
◆主催 日本女子プロ将棋協会(LPSA)
◆協賛 株式会社毎日コミュニケーションズ 厳選食品・安心堂 チュッパチャプス
◆協力 共同通信社 東京おもちゃ美術館
【スケジュール】
10:15 組み合わせ抽選
10:20 対局規定説明
10:30 小学生:1回戦/中学生:準決勝 対局開始
-対局は小学生が持時間各20分・秒読み30秒、中学生は持時間30分
11:40 小学生:準決勝開始
12:00 中学生:昼食休憩
12:50 小学生:昼食休憩
-敗退選手に中井六段、石橋四段の指導対局を予定(控室にて)
13:00 中学生:決勝戦・3位決定戦開始
13:45 小学生:決勝戦・3位決定戦開始
15:00 中学生:表彰式
15:30 小学生:表彰式 (小学生の進行が早ければ、同時に表彰式を行う場合あり)
【対局規定】
・先後の決定は振り駒
・持ち時間は小学生が各20分、中学生が各30分。使い切ったら秒読みはともに30秒
・千日手は成立時のままで先後を入れ替えて指し直し
・持将棋は27点方法。同点となった場合は後手の勝ちとする
【出場選手プロフィール】
☆中学生女子名人(全参加者数:12名 国内予選参加者)
◆東京ブロック代表 小澤あざ美(おざわ・あざみ)
・学校名・学年 横浜市立洋光台第二中・2年
・棋歴・棋力 中学選抜ベスト8(’10)・四段
・得意戦法 棒銀、中飛車
・趣味(将棋以外) 特になし
・得意科目 国語
◆名古屋ブロック代表 中澤沙耶(なかざわ・さや)
・学校名・学年 江南市立宮田中・2年
・棋歴・棋力 女子アマ王位戦名古屋代表(’09・’10)・二段
・得意戦法 居飛車
・趣味(将棋以外) ピアノ弾き語り、ボーリング
・得意科目 社会・音楽・理科
◆大阪ブロック代表 長谷川優貴(はせがわ・ゆうき)
・学校名・学年 明石市立江井島中・3年
・棋歴・棋力 中学選抜準優勝、マイナビ女子オープン本戦出場(’10)・四段
・得意戦法 振り飛車
・趣味(将棋以外) 歌を聞くこと、食べること
・得意科目 社会
◆上海ブロック代表 孙露婕 (sun lu jie)
・学校名・学年 上海市向东中学・三年级
・棋歴・棋力 3年・初段
・得意戦法 中飛車
・趣味(将棋以外) 小提琴 绘画
・得意科目 数学
☆小学生女子名人(全参加者数:62名 国内予選参加者)
◆東京ブロック代表 永井さくら(ながい・さくら)
・学校名・学年 戸田市立戸田第二小・6年
・棋歴・棋力 将棋教室対抗戦・キングカップ優勝
・得意戦法 振り飛車
・趣味(将棋以外) お菓子作り
・得意科目 社会
◆名古屋ブロック代表 今井 絢(いまい・あや)
学校名・学年 名古屋市立豊が丘小・3年
棋歴・棋力 3年・初段
得意戦法 棒銀
趣味(将棋以外)ピアノ、読書
得意科目 算数・体育
◆大阪ブロック代表
石本さくら(いしもと・さくら)
・学校名・学年 吹田市立山手小・6年
・棋歴・棋力 小学生駒姫名人戦・第3位(’10)・初段
・得意戦法 中飛車・三間飛車
・趣味(将棋以外) 音楽を聞くこと
・得意科目 社会
◆四国ブロック代表 牟田口環美(むたぐち・めぐみ)
・学校名・学年 白浜小・6年
・棋歴・棋力 小学生女子名人戦四国大会準優勝(’08・’09)・3級
・得意戦法 矢倉
・趣味(将棋以外) 絵を描くこと
・得意科目 社会
◆上海ブロック代表 郁桂花 (yu gui hua)
・学校名・学年 上海市上宝学校・6年级
・棋歴・棋力 3年・2級
・得意戦法 居飛車
・趣味(将棋以外) 电脑编程 奥数
・得意科目 数学
決勝進出者決定!
準決勝
準々決勝
(開会式、出場者が抱負を語る)
(新藤仁奈アマ)
(会場には朝から多くの方が詰めかけた)
(2回戦で林葉直子さんを破った中倉彰子初段)
(船戸陽子二段)
(前年度第3回優勝、石橋幸緒天河)
(作戦は中飛車)
(鈴木悠子アマ)
(山下カズ子五段)
(第1回、第2回優勝、中井広恵六段)
(中井六段は現在公式戦19連勝中)
(師匠の中井六段に挑戦する渡部愛TJP)
(準々決勝4局は同時に進行)
(4局とも盤側からリアルタイム中継)
(大盤解説のライブ中継をイヤホンで聴きながら、コメントに反映する)
(大盤解説は木村一基八段)
(聞き手は中倉宏美二段)
(山下五段、大きな誤算があったか)
(新藤アマ、堂々の準決勝進出)
(石橋天河、絶体絶命のピンチ)
(鈴木アマ、金星なるか?)
(中倉初段、終盤で逆転勝ち)
(鈴木さん、5手詰を見逃してしまった!)
(控え室にて感想戦)
(中井六段を追い詰めた渡部TJP、あと一歩及ばず)
(178手の大熱戦にも幕)
(一局を振り返る木村八段)
(大盤解説場にて感想戦)
8/8(日) 第4回日レスインビテーションカップ準々決勝・準決勝
LPSA公認棋戦「日レスインビテーションカップ・第4回女流棋士トーナメント」の準々決勝・準決勝を昨年同様、一斉公開対局と大盤解説会を行います。
◆主催 日本女子プロ将棋協会 日本レストランシステム株式会社
◆協賛 株式会社トーエル キリンビール株式会社 中沢乳業株式会社
◆日時 2010年8月8日(日) 10:00開場/10:30開会/17:00終了予定
◆場所 京王プラザホテル東京(東京都新宿区西新宿2-2-1)
◆スケジュール・プログラム
・10:30~ OPENING 選手紹介・コメント
・10:45~ 準々決勝 石橋幸緒四段-鈴木悠子アマ
山下カズ子五段-新藤仁奈女流アマ名人
中井広恵六段-渡部愛ツアー女子プロ
船戸陽子二段-中倉彰子初段
大盤解説:木村一基八段(日本将棋連盟)、聞き手:中倉宏美二段
・14:00~ 準決勝大盤解説
女流棋士指導対局 定員12名(申込は当日行います。希望者多数の場合は抽選)
★対局は持ち時間各40分・秒読み60秒で行います
◆入場料 一般:2,000円/ファンクラブ会員・学生・女性:1,500円
◆参加申込方法
往復ハガキ・FAX・Eメールに参加者の氏名(フリガナ)・住所・電話番号を明記して下記までお申し込み下さい。
TEL:03-3915-0931/FAX:03-6413-0934/Eメール event@joshi-shogi.com
★申込先着100名の方に限り、当日お土産付きです。
中倉彰子初段-林葉直子さん観戦記(5)
観戦記(最終回) 第2章へ…
辰巳五郎
「途中でいいと思ったんだけど…どこが変だった?」
中倉女流初段の△5七金を見て投了した林葉さんは、笑顔で話しはじめた。
「△2五角のときに▲4八金寄がイヤでした」と中倉女流初段。
その後、△8五歩を▲同桂と取れていた話など。
「相振りばっかり研究してたんだけど…。相振りやらないんだ」(林葉さん)
「はい」(中倉初段)
「やらないから、あれーっとか思って(笑)」(林葉さん)
感想戦は、石橋幸緒女流四段、船戸陽子女流二段も加わり、10分ほど続いた。
「林葉さん、考えている姿が昔と変わらない」(船戸二段)
「もっと実戦やらないといけないね」(林葉さん)
林葉さんはとても楽しそうだった。負けて残念という思いもあるにはあるだろうが、久し振りに本格的に将棋を指せたという充足感のほうが大きかったようだ。
記者会見
取材陣が戻ってきて午後3時30分から記者会見が始まった。対局前よりも人数が増えて40人以上。
はじめに共同インタビューが行われ、その後は各社個別の囲み取材になった。
林葉さんが話した内容を要約すると次のようになる。
「王手もできず、ミスも多くて残念。でも楽しかった」
「良さそうだと思って調子に乗ったら墓穴を掘った。今はポンコツ車なので、修理をしないと。今は30%くらい。100%は無理でも、あと40%くらいは上がるかも。またチャンスがあると思うので腕を磨きたい」
今後の本格復帰について「今は負けたばかりで考えられないけど、ファンの方々のお話も聞いて、考えたい」
私は聞いていて、林葉さんはもっと調子に乗って指していれば、勝機をつかんだのではないかと思った。
ポンコツ車のたとえ話も出たが、変速装置やハンドルの修理は必要だが、エンジンや車体構造は少しの整備だけで済むのではないかと感じた。
中倉女流初段は、勝負が終わってホッとした雰囲気が半分、緊張の名残りが半分。
記者会見では、角打ちに金を寄られていたら厳しかったこと、緊張をしたことなど語られていたが、次の言葉が、林葉さんの将棋を物語っている。
「林葉さんの将棋は研究したが、定跡のない自由な将棋で分からなかった」
最後は、テレビ局からの求めに応じ、林葉さんと中倉女流初段が握手をするシーンが撮影され、記者会見は終了した。
林葉さんの思い
中倉彰子女流初段は、ブログで次のように書いている。
林葉さんは、ブランクがあり、実戦不足だったと思いますが、
やはり元タイトル保持者の実力をお持ちの方、大局観など、強さを感じました。
また、対局が終わった後、 気さくに話しかけてくださったり、
報道陣の方との対応でLPSAのことを気遣ってくださったり、とても優しく明るい方でした。
広報担当理事として当日会場に詰めていた大庭美夏女流1級は、林葉さんの記者会見での言葉に触れ、twitterで次のようにつぶやいている。
個人的には林葉さんが「楽しかった」「こういう可愛い子たちがたくさんいるのでみなさん女流棋士を応援してください」と言ってくれてなんとも言えない気持ちになりました。そうですね、これからにつなげていきます。
船戸陽子女流二段は、林葉さんの帰りを見送りする間、少し話をした。
林葉さんは船戸女流二段に次のように言葉をかけた。
「陽子ちゃんに教わりたかった」
林葉さんが勝っていれば、準々決勝で船戸女流二段と対戦するはずだった。
「滅相もない。身に余りすぎるお言葉。こちらが教わりたかったです」。
船戸女流二段は、林葉さんが経営していた「ウーカレー」に何度も通うほど林葉さんを慕っていた。
このように、林葉さんが後輩女流棋士や女流棋界を思いやる気持ちはとても強い。
何度か林葉さんにお会いしていつも思うのは、彼女は、将棋が大好きだった少女時代の純粋な心をそのまま持ち続けているのではないかということだ。
会話の節々に将棋を愛する気持ちが感じられるし、人に対しても真面目で遠慮深い。
現在の彼女から、偽悪的(実はそうではないのに自分を悪そうに見せること)な部分と酒を飲むことと煙草を吸うことを取り除けば、内面はそのまま女流棋士になった頃の林葉直子さんになるのだと思う。
対局中の楽しみながら将棋を指している雰囲気、対局が終わった後の充実感溢れる笑顔、林葉さんがいかに将棋を愛しているかがわかる。
私見ではあるが、今回の対局で、林葉さんの中に女流棋士だった頃の気持ちが甦ってきたようにも思える。
戦友
控えのコーナーには中井広恵女流六段が来ていた。
中井広恵女流六段と林葉直子さんは、タイトル戦を10回も争った良きライバルであり、親友だった。
例えば、1993年の将棋年鑑には、次のような棋士アンケートの回答が掲載されている。
○身長・体重・血液型
林葉直子女流五段の回答→159cm、中井広恵より5kg重い、B型
○無人島に一年間住むとしたら、何と何を持って行くか(二つだけ)
中井広恵女流名人・女流王位の回答→林葉直子と携帯電話
○健康法
中井広恵女流名人・女流王位の回答→林葉直子の下ネタ話を聞く事
林葉さんはひらめきで指すタイプだったので感想戦で駒を元に戻せないようなことが多かった。中井-林葉戦のときは中井女流六段に駒を全部動かしてもらって感想戦をしていたこともあったという。それほど仲が良かった。
中井女流六段は翌日に女流棋士として新記録となる18連勝をかけた対局を控えていたが、対局場に駆けつけた。(翌日18連勝を達成し現在19連勝中)
それまで最多の17連勝は、林葉さん(1982年度)、山田久美女流三段(1993年度)、清水市代女流王将(1994、98年度)の3人が記録していた。
控えのコーナーに、記者会見を終えた林葉さんがやってきた。
林葉さんと中井女流六段はいろいろと雑談をしていた。
二人の間で連勝記録の話は出なかったが、初めて17連勝を達成した林葉さんと、明日、新記録の18連勝を目指す中井女流六段、二人が並んでいるのを見て、とても感慨深かった。
しかし、林葉さんは自分が17連勝したことを果して覚えているのだろうか?
別れ際、中井女流六段が言った。
「直子ちゃん、早く、体を治さなきゃダメだよ」
「うん、わかったよ広恵」
林葉さんは笑顔でLPSAサロンを後にした。
中倉彰子初段-林葉直子さん観戦記(4)
観戦記(4) 中倉彰子の気骨
辰巳五郎
「そうか……」とつぶやいた林葉さんは、駒台に何度か手を運んでから▲6一角。
△5五銀と桂を取られても▲4三香が成立する(以下、理想的には△同金▲同馬△同銀▲4一竜の狙い)。
中倉が姿勢を変えずに考える。秒が読まれる。考える。秒が読まれる。そして、やや強い手つきで△2五角。
(第7図)
非常手段ともいうべき攻防の角だ。この局面が次の一手の問題になったら結構悩ましいかもしれない。
林葉さんは13分ほど時間を残しており、残り時間を気にしながらも、じっくりと考えはじめた。読むのを楽しんでもいるようだ。
中倉は、対局が再開された3手目以降、盤面だけに集中している。
このとき中倉は▲4八金寄とされるのが嫌だと思っていた。攻めが空振りになってしまう可能性があったからだ。中倉の表情は落ち着いているものの、瞬きのペースは最高潮に達している。
もし、この場に中倉彰子ファンがいたならば、すぐにでも助けてあげたくなっただろう。
逆転
早指しで快調に飛ばしてきた林葉さんは、ここまでで一番の長考。
そして指された手が▲3六香。
この手が敗因となってしまった。
林葉さんは▲4八金寄も考えたが、△5五銀と桂馬を取られたりするのが不満だったらしい。▲5五桂は取られてしまう運命。そうであるのなら、新たに目の前に現われた2五角を詰ませてしまおうという発想の▲3六香だった。▲5五桂を必要以上に悔いて5五桂の代償を求めに駒得に走ったものなのか。
しかし、▲4八金寄△5五銀▲4三香で十分だった。
また、△2五角に対して、▲4三香△5八角成▲同金△同竜▲4二香成△4七金▲3四角成で詰めろ逃れの詰めろと、一気に勝負に行く手順もあった(感想戦での石橋幸緒女流四段の指摘)。
▲3六香と打ったので、後手には▲4三香の脅威がなくなった。
中倉から見れば、終盤の危なかった局面が中盤に戻ったことになる。
逆に林葉さんから見れば、既に終盤の入り口と意識して指すべきところを、中盤の感覚で指してしまったということになる。
そういった意味で、中倉が放った△2五角は決して好手ではなかったが、勝負の流れを変えた、中倉の勝負師としての念がこもった一手だったといえる。
辛抱が実る
▲3六香に対しては△5五銀。嫌味な存在だった桂を自分の持ち駒に変えるとともに、防御一方の位置にいた銀を戦線に参加させる一石三鳥の手。
林葉さんは予定通り、▲2六歩で角を殺す。
△3六角▲同歩を経て、中倉が仕方がないという感じで△4三香と置く。
一見筋が悪そうな辛抱一筋の手だが、この一手で林葉さんの攻撃体制が無力化されてしまった。
(第8図)
林葉さんは▲7二角成から▲7三馬と攻撃の仕切り直しをはかるが、中倉も着実に△4六銀、△2四桂と迫ってくる。
そして、▲7四馬に△7七竜。
(第9図)
林葉さんは少考後▲7五歩と打った。馬を切ったり移動した際に△7一歩と竜筋を止められるのを嫌った手だが、この日の林葉さんは、ノータイムで指した手に良い手が多く、時間をかけて指した手が疑問手という傾向だった。
ここでは、▲6三角とアヤをつけにいく順もあった。▲6三角に△4五桂▲4一角成△同銀▲同馬△同金▲同竜△3六桂という展開になれば混戦。実際には▲6三角に△3一金と寄られて余されるのだが、アヤをつける意味では本譜よりも優った。
中倉は△3六桂から収束に入る。玉がどこに逃げても△5七銀成から一手一手。▲3九玉△5七銀成で大勢は決した。
中倉の瞬きのペースは普通に戻っている。
(第10図)
以下74手まで、中倉が綺麗に寄せ切った。
途中までは林葉さんが優勢で勝機もあったが、中倉が辛抱を重ね、一瞬のチャンスをうまく生かし勝利を呼び寄せた一局だった。
中倉の気骨
昨年9月26日の日レスインビテーションカップ準々決勝・準決勝でのこと。
女性アマ強豪の台頭は近年めざましく、女流棋戦トーナメント本戦まで勝ち上がることも珍しくなくなってきており、中倉の準々決勝の相手は高校生強豪の小野ゆかりアマ女王だった。
中倉は、鬼神が乗り移ったような攻撃で、この勝負を勝つ。
準決勝の相手は、準々決勝で中井広恵女流六段を破った女子中学生最強の成田弥穂女子アマ王位(当時)。
中倉にとっては2戦続けてのアマ強豪との対決で神経を使う展開となった。
対成田戦は、終盤中倉が優勢になったが、最後に逆転されて敗れてしまう。
この日は、一斉公開対局であり、大盤解説会も行われた。
対局を終了した中倉は、大盤解説会場で感想戦を行い、大盤解説会が終わった後、一人、対局場に戻って敗局の検討を続けていた。
写真(http://www.joshi-shogi.com/nrs/20090926_nakakura-akiko.jpg)で見るその後ろ姿には、並々ならぬ闘志を感じさせられる。
そして、今年の7月17日、第4期マイナビ女子オープン一斉予選の日。
中倉の対戦相手は、前年9月に日レス杯準々決勝で戦った小野ゆかりアマ女王。
中倉は終盤まで優勢に進めていたが、一手の緩手が響いて逆転されてしまった。
終局後の大盤解説会場での公開感想戦が終わった後、たまたま私は、中倉とすれ違った。大盤解説会場ではいつもの笑顔の中倉だったが、その時の中倉は、やや目を瞑りながら、無念そうな、悩ましそうな表情をしていた。壮絶な美しさの勝負師の顔だった。
中倉は自身のブログで次のように語っている。
脇役とは十分承知していましたが、こんなに注目された中で
対局できることは、今までにないことなので、精一杯対局しようと
思っていました。
今回の林葉さんとの対局は相当なプレッシャーがあったものと思うが、そういった中、中倉は、女流棋士としての矜持を示した。
(明日の最終回につづく)
中倉彰子初段-林葉直子さん観戦記(3)
観戦記(3) 瞬きとため息 辰巳五郎
▲7七桂を指した後、林葉さんは席を立った。立つと同時に蝉が鳴きはじめた。ここまでの消費時間は、林葉さん13分、中倉女流初段20分。
中倉女流初段は長考に入った。視線は敵陣右翼に注がれている。対局開始以来、中倉女流初段の瞬(まばた)きの回数が多い。女性の場合、1分間に32回以上瞬きをしている時はかなり緊張をしている状態という。取材陣の多さと熱気から、見慣れたLPSAサロンが異空間化し、取材陣が去ったと思ったら、そのまま「林葉直子」との対局。プロといえども、緊張しないほうがおかしい。
林葉さんが席に戻ってきた。蝉の鳴き声が止んだ。林葉さんは向いの壁に貼られている「集まれ将棋ガールズ」のポスターを眺めている。
中倉女流初段、林葉さん、ともに対局中は相手の顔は見ない。林葉さんが扇子をパチパチと二度鳴らす。林葉さんの扇子は大山康晴十五世名人の「夢」。
今日の林葉さんは、レインボーカラーのチューブトップワンピースにラベンダー色のカーディガン。本人曰くリゾートファッション。中倉女流初段は、濃紺のカットソーに白のスカートと、シックな装い。
テーブルには、二人にそれぞれ2本の飲み物が用意されている。
ひとつが、日レスインビテーションカップの協賛である株式会社トーエルの「アルピナ・ピュアウォーター」(http://www.alpina-water.co.jp/)。北アルプスの麓で採水される水を逆浸透膜システムにより分子レベルまで磨き上げた、純水に近い水だ。
もうひとつが、やはり協賛であるキリンビール株式会社と同じキリングループのキリンビバレッジ株式会社の「午後の紅茶 ストレートティー」(http://www.beverage.co.jp/gogo/)。紅茶は「冷やせば濁る」という性質を持っているが、この特性をクリアアイスティー製法により打破したリーフティーの本格紅茶だ。
読みのエアーポケット
中倉は12分の長考で△8五歩。林葉さんの誘いの隙には乗らなかったものの、この手は危険だった。▲8五同桂と取られる筋がある。(△同飛なら▲9六角)
(第4図)
▲8五同桂△5四角▲8六飛、または▲8五同桂△8四飛▲8六歩のような展開となり、一気に優勢になるわけではないが、一歩得であることと指し手の主導権を握れることが大きい。
▲8五同桂の筋は、対局中は両対局者とも気が付いていなかった。読みから抜け落ちていた。感想戦で林葉さんは「なんだ、取っていれば良かったんだ。気が付かなかったから、気が付かなかったのよね」と笑いながら語った。対局者同士のテレパシーのようなものだ。
幸せそうな表情
大きくため息をついた林葉さんは▲6五歩から攻めにいった。△同歩なら▲同桂△6四銀▲6六歩で、次に▲7四歩や▲6三角の楽しみが残る。
中倉は△8四飛と柔らかく受ける。ここで林葉さんが考え始める。扇子を鳴らしてため息を二回。林葉さんは、指し手が思い通りにいっている時に、ため息が出るようだ。
そして、4分考えて▲7四歩。決戦開始。
林葉さんが席を立った。先程と同じように、立つと同時に蝉が鳴きはじめた。中倉は読みにふける。瞬きの多さは変わらない。
林葉さんが席に戻ってきた。不思議なことに、先程と同じように蝉の鳴き声が止んだ。林葉さんは「アルピナ・ピュアウォーター」を飲む。
中倉は40分の持ち時間を使いきって、秒読みになった。林葉さんは残り19分。
林葉さんの対局中の表情は少し微笑んだ感じのポーカーフェースだが、間近で見ていると、楽しみながら将棋を指している雰囲気が強く伝わってくる。
「将棋に戻ってきて良かったですね」
思わずそう声をかけたくなってしまうほどだった。
決戦
▲7四歩に対して中倉は意を決したように△同飛として、飛車交換を迫る。△同歩では▲6二角と打たれ馬を作られるので△同飛しかない局面でもある。以下、飛車交換をして互いに飛車を打ち合った。
(第5図)
林葉さんは、ここから▲8一飛成と桂を取る。▲4一飛成△同銀▲7九金もあったが、林葉さんは桂、香を入手して敵陣に迫る絵図を描いた。以下、△8八飛成▲5五桂。
局後に林葉さんは▲5五桂を悔やんでいた。▲5五桂では、先に▲9一竜と香を持ち駒にして、それから▲5五桂を狙う方針のほうが本譜よりも優っていた。△4二金引と引かせてからの▲9一竜は、次の▲4三香を見せたスピード重視の手だが、中倉は取ったばかりの銀を5四に打ち込み必死の防戦。
(第6図)
しばらくしてから、林葉さんが「そうか……」とつぶやいた。
林葉さんは、銀を受けられてやや悲観してしまったと局後に語っていた。だが、ここではまだまだ有望だった。
(つづく)
中倉彰子初段-林葉直子さん観戦記(2)
観戦記(2) 林葉式石田流 辰巳五郎
午後1時、対局が開始された。立会人は石橋幸緒女流四段、記録は大庭美樹女流初段。
林葉直子さんがノータイムで▲7六歩。
間もなく中倉彰子女流初段が△3四歩。
ここで、取材陣が退出。時計が止められ、対局がいったん中断する。
林葉さんは席を立って一服。
中倉は席に座ったままで「初めての雰囲気で……」とつぶやく。
中倉は自身のブログでこの時の様子を次のように書いている。
対局場の入ると、報道陣の多さにビックリ。
見慣れたLPSAサロンが、異空間のように感じました(^^;)
テレビでの司会の経験が豊富な中倉でさえ驚くほどの、熱気と人の多さだった。
二人の棋風
林葉さんが日本将棋連盟を退会する1年5ヵ月前に中倉が女流棋士になっているが、この間、二人の対戦は一度もなかったので、初手合いということになる。
中倉は四間飛車穴熊を得意としているが、もともとは居飛車党。相手が振り飛車のときは相振り飛車にせず、居飛車穴熊にすることが多い。序盤から少しずつリードを広げて勝ちにいくタイプで、優しく清楚な外見とはうらはらに、過激な指し手が繰り出されることも多い。
一方の林葉さんは、変幻自在。過去の棋譜をもとにそこから新しい一手を研究するのではなく、最初から自分自身で違う棋譜を創造してそこから最高の一手を考えたいという主義だ。
現在では戦法として確立されている初手▲3六歩からの袖飛車は、林葉さんが20年前に多用していた戦い方であり、対左美濃藤井システムも、20年前の林葉さんの一局(1990年12月13日女流名人位戦 中井-林葉戦)がヒントになったとされている。
現役時代から定跡や他人の棋譜は研究しなかった。あるインタビューでは、林葉さんが一番やりたくない棋士は林葉直子と語っている。何を考えているのかさっぱりわからないというのがその理由。
林葉さんの将棋は、ひらめきを積み重ねる将棋なのだ。
▲7五歩の背景
午後1時6分から対局再開。
再開直後、林葉さんがノータイムで▲7五歩と突いた。
石田流の出だし。
この日、林葉さんは事前に具体的な作戦を立ててきたわけではなかったが、相振り飛車を想定していた。(後手番だったら4手目に△3三角と指すつもりだったと局後に語っている)
まだ対戦相手が決まる前、林葉さんはある棋士からアドバイスを受けた。
「最近の女流の対局は相振り飛車になることが多いんですよ」。
林葉さんは、対局までの時間が限られているので、相振り飛車に絞って研究を開始することにした。その時には相振り飛車の指導も受けた。15年ぶりの対局とはいえ、定跡や棋譜を研究しない林葉さんとしては異例のことだった。
この5月、林葉さんが将棋連盟に15年ぶりに行った時(昨日の記事参照)に、「あっ、大ちゃんの本だ」と言って販売部で買った本が、鈴木大介八段の「明快相振り飛車」(創元社)。戦型の分類と整理にちょうど良い本だった。
▲7五歩は、そういう意味では、石田流対居飛車ではなく相振り飛車の気持ちで指された▲7五歩だった。
しかし、中倉は相手が振り飛車のときは相振り飛車にはしないので△4二玉。
局後の記者会見で、
石橋「3手目▲7五歩は現在将棋界でも流行している作戦でして・・・」
林葉「えー、全然知らなかった(笑)」
というのも、このへんに理由がある。
林葉さんはノータイムで▲7八飛。
相振り飛車にならなかったとしても、一向に気にせず前に進むのが林葉流。
乱戦を避ける
中倉としては▲7八飛ではなく▲6六歩を予想していたのだろう。これなら持久戦になり、中倉が得意とする自玉を固めてから攻撃体制に移る図式を実現できるし、そのような実戦例も多い。
しかし、大胆な▲7八飛。
この局面から、△8八角成▲同銀△4五角という手がある。以下、▲6八金△2七角成▲7四歩△同歩▲5五角△3三桂▲7四飛△7三歩▲3四飛などの展開の乱戦になるが、それは序盤における中倉の棋風ではなく、また、現役時代、形にこだわらない将棋を得意としていた林葉さんを乱戦に誘導するのは得策ではないという判断がはたらいた。
そういうわけで中倉は、少考後おだやかに△6二銀。以下、駒組みが進むが、林葉さんの▲5八金左から▲7六飛が独特な指し方。このタイミングの▲7六飛は△3四歩を狙いにいく含みがあるので、中倉の角交換から△3二銀は必然の流れとなる。
誘いの隙
林葉さんの▲5八金左が独特な理由は、▲7六飛と浮いて角交換されると、その後の模様の取り方が難しくなるからだ。7八の地点にスキができるので、▲7七銀や▲7七桂と活用しづらくなる。
通常は▲5八金左と上がらずに、将来▲7八金とする前提で6九金のままでいるのが石田流の指し方。
升田幸三実力制第4代名人は自らが編み出した升田式石田流を数多く指しており、そのほとんどは▲7八金(△3二金)と活用しているが、一局だけ実験的に▲5八金左(△5二金左)と指したことがある。(1971年12月王将戦 対有吉道夫八段戦)
後手の升田九段は、2一桂の活用もままならず、2二の銀を僻地の1三に上がる非常手段をとっている。この後、升田陣は攻め潰される。
升田式石田流の家元、升田幸三実力制第4代名人をもってしても、▲5八金左(△5二金左)型は、うまくいかない。
しかし、林葉さんは、この難題をクリアしてしまう。
指し手が進んで第3図。
▲7七桂と跳んだので、7八と8九に角を打ち込むスキができた。一瞬ドキッとするような局面だ。
しかし林葉さんは対策を用意していた。△7八角には▲9八角で、
(1)△6九角成ならば▲8九角。次に▲5九金寄で馬を取ることができる。
(2)△3五歩には▲6五桂(7八角取り)△3四角成▲7三桂成△同桂▲7四歩。
角を手放したくなければ、△7八角と打たれた時点で、▲6五桂△8九角成▲7三桂成△同桂▲7四歩という、もっと過激な手順も成立する。
△7八角や△8九角を打つと幸せになれない。
この局面、感想戦で林葉さんは次のように語っている。
「角を打ってくれないかな~と思っていたのに」。
林葉さんが現役の頃は、升田式石田流がプロの間では指されなくなっていた時期だった。現役時代を含め、升田式石田流の研究をしたことがない林葉さんが、一瞬のひらめきで創り上げた局面だったのだ。
石田流の姿を借りた林葉流の将棋と言うべきか。
(つづく)